夢を忘れた眠り姫
そのあまりにもアンニュイな、まるで流し目のような視線の配り方に改めてドキマギしながらも私は言葉を続けた。


「だったらそういう人は頑張って着ければ良い。俺は別に眼鏡でも何ら差し支えがないから、それをチョイスしているだけの話だ」

「…嘘だ」

「は?」

「ホントは眼鏡なんか必要ないんでしょう?ズバリ、変装の為にかけてるんじゃないんですか?」


何故だか知らないけど私はどんどんエキサイトしてきていた。


「『眼鏡を外すと実は美形』ってのは創作の世界では昔から腐るほど使いこまれて来たネタですけど、現実世界でそんな人は稀ですから。元々の美醜は関係ないんです。視力の弱い人が裸眼になると、何とか周りの景色にピントを合わせようとして、目の周りの筋肉が緊張してしまうから、どんな人でももれなく微妙な表情になります。だから『外したらレベルアップ』という法則は成り立ちません。そもそも美形の人は眼鏡をしてても美形です」

「……で?」

「つまり眼鏡を外した方が状態が良くなる貴志さんは、それほど目が悪い訳ではないという事です」


名探偵よろしく、私はズバリ指摘した。


「伊達か、もしくはかなり度数の弱い物をかけているんじゃないんですか?そしてきっと家では外して生活している。さっきの呟きから判断するに、私の存在をすっかり忘れていたみたいだし、ついうっかり、いつもの通りに行動してしまったんじゃないでしょうか?」
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