夢を忘れた眠り姫
『スッピンでもさほど変わらない』という言葉に思わずにやけている間に貴志さんは続ける。


「職場では『おっとりふんわりスイーツ女子』っていう評価なのに、とんだ猫かぶりだ。「マロンのお菓子がある」と言われて繊細でコジャレた作りのモンブランを予想していたら、しっかりどっしり栗ようかんを出された、くらいの衝撃があるぞ」

「え?良いじゃないですか栗ようかん。私は大好きですよ?」


あの丸ごと入った栗の存在感がたまらないんだよね。

ひたすら甘いようかんのお口直しにもなるし。


「いや、そういう問題じゃなくて…」

「分かってますよ。何だか貴志さんに対しては、ついつい素の自分が出ちゃうんですよねー」


私はしみじみとした口調で胸の内をお披露目した。


「この人の前では気合いを入れる必要性は全くないな、と感じてしまって」

「ナチュラルに失礼な奴だな」

「あ、いや。ある意味誉め言葉なんですが…」


それだけ気を使わないでいられる人だという事で…。

ああ。
日本語は難しい。


「でも…良かったです。自分の思惑は成功しているようだし」

「ん?」

「さっき貴志さん、言ったじゃないですか。私が周りに『おっとりふんわり系』だと誤認されてるって。ズバリ、私はそういう感じを目指してますから」

「…そうなのか?」
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