魅ノ狂夢ー侵食ー
気がつけば夜が明け始めている。
横で眠るおばさんを、起こさないように私は、雅仁の部屋の前まできた。

思いきって開けようとしたが、開かない。

「どうして…」

雅仁は、いつも私を励ましてくれる。
でも、私は雅仁がずっと優しく笑顔だったから…
「雅仁…佐竹さんって、どんな上司だったの?」

返事は、なかった。雅仁が居るはずなのに、物凄く苦しい。

「自分勝手で、ごめん…雅仁」

私は、おばさんに書き置きを残して
雅仁のうちを、出た。

外は、青々とした木々が滴をつけ揺れていた。
昨夜霧雨が、降っていたが今日は綺麗に晴れている。

私は、外の空気を一気に吸い込み雅仁の、務めていた製薬会社の位置をスマートフォンで調べた。

「何か、あるはずなの…」

スマートフォンを、ぎっと握り私はバス停まで歩いた。

ーーーーお姉ちゃんーーー

「えっ?」

ふと、幼い声の方を向く。

そこには、二つに結んだ可愛い女の子が居た。

「どうしたの?」

私は、彼女の目線に合わせてしゃべった。

「お姉ちゃん……っ…だ…め…」

その子は、話ずらそうにダメと言った。

「どうし…」

その瞬間バスがバス停に停まった。
バスに、目を向け女の子の方を振り向く

「あれ…」

その子は、居なくなっていた。
私は、気にはなったがバスに乗り込む。


「…そう言えばあの子どこかで…」

席に座り、ふと思った。

私は雅仁の、メールを確認してみた。
プロジェクトチームに誘われる前に、送られてきたものだが、ずっと保護していた。
我ながら、乙女である。

ーーー茜、今日は尊敬してる上司の家でパーティー(^-^)兎和廻ちゃん読める?
とわね、ね(笑)
今日で12才で、お祝いパーティー(^-^)
兎和廻ちゃん可愛いだろっ!
兎和廻ちゃんみてると、子供っていいなって思った。なーんて(笑)ーーー

ーーー写メーーー

「え、兎和廻ちゃん?そっくり…」

進むバスの、後方を見る。
もう、随分進んでいるから兎和廻ちゃんだったのかも確認できない。
引っ掛かる事も、あるのだけどでも私は、先に進まないと…
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