ヘタレな野獣
うわぁ、綺麗な字・・・

彼の書く字は、それはそれは綺麗な字で、冬子はそれに見惚れてしまった。

指も何だか凄くセクシーで・・・



「えっと、かっ、書けました」


雨宮の声で我に返った冬子は、得体の知れない胸の動機を感じていた。



「拝見していい?」

「はい、どうぞ」


えっと何なに?

冬子は彼が書いた経歴書に目を通した。



雨宮剛〈アマミヤタケル〉
10月10日生まれ
31歳


って、誕生日私とまるっきり一緒なんですけど!
家も私んちと近くなんだ。

へぇ、国立大でてるじゃん、凄、
などと、冬子は彼の書いた履歴書に目を通す。


「えっ?前職事務方なの?」

「・・・入社した時は営業だったんですが、どうも営業には不向きだったようで、もう1人の、此処に来る筈だった雨宮君が・・・同姓同名が同じ課に居ると紛らわしいって・・・だから、僕が5年前経理に異動したんです」


部長が入手した社員名簿はその頃のものだったのか・・・




「何なの?そのアメミヤって男」

「えっ?」

冬子の思わぬ発言に驚く雨宮。


「いや、だからね?今の話聞いてると、そんなヘッドハントされるような人柄でも無いなぁと思って」


危ない危ない、どうしちゃったんだろう、初対面の彼の肩を持つような発言したりして。


「いえ、雨宮君は凄い人ですよ。僕が営業に不向きだと察知して、経理に話つけてくれたり、異動しやすいように大義名分まで作ってくれたり、本当に彼は仕事も何もかも完璧な男です!」

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