ヘタレな野獣
「フッ、そう見えるか?だったらそうなんだろうよ。
俺は、アイツに代わってコイツに恨みを晴らしてやってんだ!邪魔すんじゃねぇ!!!」

ドカッ、バシッ、


床に顔から落ちたせいか、顔の左側がドクンドクンして、目を開ける事が出来ない。

耳に入る音だけが頼りだけど、今の音は何だったの?

「離せ、離しやがれ!うわぁあああ!!!
くそっ、離せ、離せぇえ!!!」
「・・・」


「きし・だ?どうなってん・・・の・・?」

あまり開かない口で、声を絞り出す。

「ん?大丈夫だよ、すぐに警備の人、来てくれるからね?」

岸田は、私の言ってる事が聞こえなかったのか、ただ単に私を不安にさせない為か、私の髪をそっと撫でた。


暫くすると、バタバタと慌ただしく人が何人か入って来る気配がした。

「お願いします」
「承知しました。警察には・・・どう致しますか?」
「・・・」
「課長?何を躊躇っているの?現行犯じゃないですか!」

私の頭の上で、岸田が狼狽した声をあげている。

「・・・お願いします、」
「はい、承知しました、おい、行くぞ!」
「くそっ、」

悪態を吐く下柳の声がだんだん遠くなる。


助かったの?
どうなったの?
ねぇ、岸田、教えて・・・


「ちょっ、冬子!」


岸田の声を聞きながら私の意識は薄れていった。


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