ヘタレな野獣
周りのざわつきで目を覚ますと、来客室のソファーに横たわっていた。

いや、そうじゃないな、岸田の体にもたれ掛かっていた。

「と、冬子?大丈夫?
部長、課長!目を覚ましました」

岸田がそう声を上げるとバタバタと数人の足音がした。

「田崎君、・・・少し腫れているな・・・
やはり病院に行った方が・・・」

山田部長の声だ。

「痛い所は、・・・どこか痛いところはあるかい?」

ん?この声は田中部長、なんで人事の部長が・・・

「とにかく、タクシー、いや、社用車を出した方が・・・、雨宮君、どうしたらいい?」

何だか凄く大袈裟になってる。


私は打ち付けていた左目を押さえながら、ゆっくりと右目を開けた。


意外と開くもんだ、それからゆっくりと口を開けてみる。

大丈夫、

喋れそう。


「部長・・・?私は大丈夫です、少し打ち付けただけですから・・・」

自力で起き上がろうと試みたが、何故か腹筋が痛くて力が入らない。

それでもどうにか岸田の手を借りて、体を起こす事が出来、無傷の右目だけで周りを見渡した。


山田、田中両部長に、矢野課長、あれ?ヨレヨレ君の姿が・・・あっ、居た居た、彼はこの部屋の隅っこで、警備員の人と何か話しているようだった。

「大丈夫、彼に任せときなよ、大丈夫だから・・・」

岸田はひきりなしに私の背中や肩、髪を優しく撫でていた。


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