ヘタレな野獣
二人の部長は、タクシーを呼ぶから帰った方がいいと言ってくれたけど、私はこの蟠りを抱えたまま帰るつもりは無かった。


岸田は、そんな私を心底心配してくれた。


「お願いです。
下柳補佐に会わせて貰えないでしょうか」


事情聴取が終わった後、二人の警官はとっくに姿を消していたので、彼が今どこで拘束されているのか、さっぱりわからなかった。


「冬子、奴に会って、あんた一体・・・」

岸田が不安そうに私を見ていた。


私はただ、こんな事をした理由を、下柳の口から聞きたいだけだった。


“小泉”
下柳が口にした名前。


何故正君の名を口にしたのか、その理由が知りたかった。


「では、私が同行します、あなた一人では行かせません」


ヨレヨレ君が、困惑の表情を浮かべる部長達を後目にそう言った。

「でも、会って貰えないかも知れませんよ?
いいですね?」
「と、とにかく、明日、労災の手続きを早急に手配しよう、田崎補佐は、自宅で安静にしているんだぞ、分かったね?」


そんな部長の一言を合図に、皆、帰路にたった。

「じゃ、くれぐれも宜しくお願いしますね、雨宮課長」


私と反対側に帰っていく岸田は、ヨレヨレ君に念を押している。



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