ヘタレな野獣
会社からのタクシーの中、居心地が悪かったのも、きっと無意識に体を固くしていたから・・・

玄関のドアに鍵をかけ、真っ暗なリビングに足を向ける。


電気も点けず、廊下からの灯りを頼りにソファーに近付く。


そのままゆっくりと腰を下ろす。


「痛っ・・・」

下柳に掴まれたとこが痛い。


「・・・クッ・・・ウゥウッ・・・」

なんでこんな目に合わなきゃなんないの?

私は独りきりの部屋で、声を殺して泣いた。


悔しい、悔しい・・・




だから私は、下柳から逃げない、納得のいく理由を聞くまでは奴から逃げたくない。


奴は正君、あなたと一体どんな関係だったの、・・・



あの頃、正君に、一度だけ、別れ話を切り出された事があった。

理由を聞いても、ただ別れてくれの一点張りだった。

『俺みたいなのがとこの彼氏だなんて・・・その内きっと、とこに迷惑がかかる』

そんな事、言っていた。

でも、白黒ハッキリしないと前に進めない私は、決して首を縦に振らなかった。

あの時、他に好きな人が出来たとか、もう好きじゃないとか、言われていたら、彼の望むように、別れていた、と思う。


そうしたら彼は死なずに済んだのかも知れない。


ごめんね?正君・・・ごめん


ソファーにもたれながら、泣き疲れていつの間にか眠ってしまった私は、自分のしゃくりあげる声で目が覚めた。


< 112 / 148 >

この作品をシェア

pagetop