ヘタレな野獣
「えへへ・・・なんか嬉しいよ、岸田。
私、岸田に愛されてんだ」
「げっ、それって何かキモくない?」
「あははっ、ん、キモいかも・・・」
「冗談はさて置き、マジでいつから出てくんの?」

私は顔の痣を押さえながら、出来れば明日から出社したいと岸田に言った。

「・・・そっか、・・・ちょっと待って?
部長に連絡してみるよ」

岸田はそう言うと、携帯を取り出した。


「岸田です、お疲れ様です。今、大丈夫ですか?・・・はい、えぇそうです、・・・はい、本人は明日から出社したいと・・・え?あっはい、今代わります」

そして差し出された携帯、田中部長が話したいって、岸田がそう言った。

「もしもし、ご無沙汰しております、はい、はい、・・・出来れば明日から・・・
えっ?・・・そうですか、分かりました、ではお言葉に甘えさせて頂きます。
はい、失礼致します・・・」

話終え、携帯を岸田に返す。

首を捻りながら携帯を耳に当てる岸田を私はボンヤリ見ていた。


「冬子、勘違いしないんだよ!?この手の事って、尾ひれはひれで、事実がねじ曲がっちゃうから・・・会社側は冬子を心配して・・「解ってるよ、私だってそんなバカじゃないんだからただ少し、ショックだっただけだから」


『内々に処理したかったが、どこからか情報が漏れた。騒ぎになるからもう暫く出社は控えて欲しい』


複雑だった。

確かに不安はあった。

既に周りはあの出来事を知っていて、いろんな噂話をしているんじゃないかとか、課長補佐の職を解かれるんじゃないかとか、・・・


何度も岸田に聞こうとしたけど、怖くて聞く事が出来なかった。


そしてその不安を増長させる原因・・・


ヨレヨレ君からの連絡がない事・・・



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