ヘタレな野獣
「おっ、田崎補佐、その人新人さん?」

隣の課の、冬子と同じ課長補佐の下柳が声を掛けてきた。


こいつ、今朝の騒ぎの時、部屋に居たじゃない!

絶対面白がってる。



冬子はフンッと奴から視線を外し、ここは無視する事に決めた。



「ねぇ、田崎補佐ぁ、聞いてるんだからちゃんと答えてよぉ」


ニヤニヤしながら私に近寄り、肩に手を置く。


「ちょっと止めてよ下柳補佐!」


「やだなぁ、これもひとつのスキンシップじゃないっすかぁ、互いに部を盛り上げる為、こういうの必要っしょ?」


気持ち悪い位の笑顔で隣に立つ彼を見上げる。


そして、新人さんが居るからか、下柳の奴、調子に乗って肩に置いた手を前に滑らせ、今度は腕を首に回して来た。


もう、我慢出来ない、この男だけは、・・・


奴の腕を捻り上げてやろうと回された左腕を掴もうとした時!

「いっ、痛い痛い!」

下柳が叫んでる。冬子はまだ何もしていない。


「彼女、嫌がっているじゃありませんか」


その声に見上げると、雨宮が下柳の左腕を捻り上げていた。

ザワザワザワ・・・

気が付くと私達の周りに大勢のギャラリーが出来ていた。

そうだ、此処はエレベーターホール。
従業員が面白がって集まってきたんだ。


「チッ、田崎!お前覚えてろよ!」


下柳はそう捨て台詞を残して、何見てんだ馬鹿野郎!と罵声を飛ばしながら、ギャラリーを押しのけ廊下の彼方に消えて行った。


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