ヘタレな野獣
人事部の入口で、小声で話していたら、背後からヨレヨレ君がやって来た。

「さっ、参りましょうか」


背中に手を回され、応接室のドアの前、当たり前の如く、ノックをし、失礼しますと一声発し、ドアを開けた。



部屋に入るなり弁護士先生は挨拶もそこそこに、本題に入った。



「あなたにその気が無いのなら、穏便に対処したいと思います。彼もまだ若いですし・・・」


その言いぐさに腹が立った。


「はっ?若ければ何をしても許されるのでしょうか・・・」

しかし口を開いたのはヨレヨレ君、私では無かった。

「いや、雨宮さん、私はそういうつもりで言ったのでは無くですねぇ、その、お見受けした所、怪我もたいした事がなかったようですし、いくら退職したとはいえ、元同僚を相手に・・・
田崎さんも、何かと職場に居づらくなるのでは・・・そう言う観点から・「はん!話になりませんね、部長、この方、本当に法に携わられている方なんですか!?」




いきなり弁護士先生の話に割って入ったと思ったら、キツい言葉を投げ掛けている・・・

ヨレヨレ君、あなたって本当に・・・

私は黙ったまま、動向を窺う。

正面に座った弁護士先生の体はわなわなと震えだし、二人の部長は変な汗をかき始めていた。


「キチンと事の顛末をお調べになられたのでしょうか・・・
これがただの暴行だと思ってらっしゃいますか?」


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