ヘタレな野獣
「私を避けてた癖に・・・」

「えっ?」

ヨレヨレ君は、その言葉に私から離れ、ジッと私を見ていた。


「電話、かけてきてとか言っといて、何で一度もかけて来てくれなかったの?」


かけてきてとは言われたけど、かけるとは言われてはいない、でも、私はそれを望んでいたんだ。

「すっ、すみませんでした・・・
僕は奴の正体を突き止める事ばかり考えていて、冬子さんがそんなに、僕を頼りにしてくれていただなんて・・・理屈抜きに嬉しいです」


えっ?、そうじゃなくて・・・

「・・・」

ううん、その通りかも知れない。

いや、その通りなんだ、この数週間、私を不安にさせていたモノ・・・

それは紛れもなくヨレヨレ君の、私に対する態度だったんだ。


「一応の事は解決・・・
そう受け止めて、良いのですよね?」


正君の墓前で、私は下柳と今後一切の関わりを持たないと断言した。

それが意図するもの、つまりは奴を告訴しないという事で、私はヨレヨレ君の言葉に、静かに頷いた。



「そろそろ夕飯時です、どうですか?
飯でも一緒に・・」

ヨレヨレ君はハザードを解除して、代わりにウィンカーを右に出しながら、私を一度チラッと見て、車を発進させた。


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