ヘタレな野獣
「先日はお礼も言わず、本当に失礼しました」

「・・・何の事かしら?
あたし、物覚え、悪くってぇ、
それより、今日はゆっくりしていけるんでしょ?」

そう、ここはヨレヨレ君の元の上司の方のお店。
来るのは二度目であった。

私に気を使ってか、この前ご馳走してくれたのにとぼけてくれる、優しいマスター。



ここに来た後、あんな事件がおきて・・・

ヨレヨレ君とも、何となく距離を置いて・・・



本当に短い間に、色んな事がありすぎた。



そしてもうすぐ30日、あの日が来る。



他愛も無い話をして、久し振りに楽しい一時を過ごす事が出来て、私はそれだけで、幸せな気分になっていた。




「今日はありがとう、何ていうか・・・
下柳との場を設けてくれて・・・
すっきりとまではいかないけど、けじめって言うか、私なりに踏ん切りが着いたって言うか、とにかく、ありがとう」


マンションの前で車を停めて、私はシートベルトを外しながら、ヨレヨレ君に精一杯の感謝の気持ちを伝えた。


「・・・・・」


そんな私の言葉にも、ヨレヨレ君は何故か黙ったまま、私をジッと見ている。


「おっ、送ってくれてありがと、じゃおやすみなさい」



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