ヘタレな野獣
そう言って車を降りようとした時、カチャン、ドアがロックされる音が車内に響いた。

私はびっくりして運転席の彼を見た。

街灯にうっすら浮かび上がった彼の表情は、どこか厳しいものだった。

「・・・それだけですか?
他に言う事は、・・・ないんですか?」


言っている意味が分からない私は、ただ黙ってヨレヨレ君を見つめていた。


「そんな社交辞令じみた言葉は結構。
僕が聞きたいのはそんな言葉じゃありません・・・」
「・・・・・」

社交辞令じみたって・・・
私はそんなつもりで言ったんじゃないのに・・・

「僕が、アナタから聞きたいのは、そんな安っぽい言葉じゃない!」


そう発するや否や、私は彼に思いっ切り抱き締められた。

「かっ、課長?・・・」
「っ!!!課長・・・?」

課長と呼ばれて、彼は私から少し体を離した。

「・・・今更、課長ですか、アナタは公私の区別をつける為、社外では、・・「だって!だって!」

「・・・?」

だって・・・
今、私の気持ちは完全にヨレヨレ君にいっている。

下柳との事も、私の為に時間を割いて走り回ってくれた。

単なる部下にそこまでする上司がいるのだろうか、そう思うと、出逢った当初、彼から言われたあの言葉が蘇る。


『3年間想い続けていた』

自惚れていいのだろうか、そう想い始めると気持ちはどんどんハマっていった。


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