ヘタレな野獣
お父さんは、深く詮索する事もなく、少しだけ私の前をゆっくり歩き出した。
「そうそう、この間、田中から連絡があって、タケ坊がとこちゃんとこの会社に転職したそうじゃないか」
田中部長との仲が発覚した時“親友の父親の友人”と、ヨレヨレ君は私にそう説明した。
嘘じゃなかったんだ・・・
それどころか、ありとあらゆる所に鍵はばら撒かれていたんだ。
それに私が気付かなかった・・・
それだけのことなんだ。
「お父さん・・・私、」
「皆まで言う必要なんか、無いんだよ?
僕はねぇ、とこちゃんにお父さんって呼んでもらえるのが、嬉しかった。
せめて籍でも入っていれば、いつまでも手元に置いて、実の娘のように可愛がったのに・・・
アレは何でとこちゃんと結婚しなかったのか・・・
なんて、考えた事が何度かあってね?
それを田中に言うと、笑われたよ・・・」
「お父さん・・・」
「これからはタケ坊と共に歩んで行きなさい。
タケ坊はアレなんかよりずっとしっかりしていて、何より見た目もいい。
大丈夫、大丈夫」
お父さんはそう言って、私の肩を掴んで、体を反転させた。
っ!!!
向けられた先に、優しい笑顔でこちらを見ているヨレヨレ君の姿があった。
ほらっ、とお父さんに背中をポンと押され、弾みで2、3歩足が出た。
あれ?ナンだこの感じ・・・
あんなに出した一歩に体重を掛けることが出来なかったのに・・・
そっか・・・
私、お父さんに背中を押して貰いたかったんだ。
もういいよ・・・そう言って背中を押して貰いたかったんだ。
「冬子!」
2、3歩、歩いて速度をなくしたその足はヨレヨレ君の、私を呼ぶ声で再び動き出す。
一度後ろを振り返ると、お父さんはにっこり笑って手を振っていた。
「そうそう、この間、田中から連絡があって、タケ坊がとこちゃんとこの会社に転職したそうじゃないか」
田中部長との仲が発覚した時“親友の父親の友人”と、ヨレヨレ君は私にそう説明した。
嘘じゃなかったんだ・・・
それどころか、ありとあらゆる所に鍵はばら撒かれていたんだ。
それに私が気付かなかった・・・
それだけのことなんだ。
「お父さん・・・私、」
「皆まで言う必要なんか、無いんだよ?
僕はねぇ、とこちゃんにお父さんって呼んでもらえるのが、嬉しかった。
せめて籍でも入っていれば、いつまでも手元に置いて、実の娘のように可愛がったのに・・・
アレは何でとこちゃんと結婚しなかったのか・・・
なんて、考えた事が何度かあってね?
それを田中に言うと、笑われたよ・・・」
「お父さん・・・」
「これからはタケ坊と共に歩んで行きなさい。
タケ坊はアレなんかよりずっとしっかりしていて、何より見た目もいい。
大丈夫、大丈夫」
お父さんはそう言って、私の肩を掴んで、体を反転させた。
っ!!!
向けられた先に、優しい笑顔でこちらを見ているヨレヨレ君の姿があった。
ほらっ、とお父さんに背中をポンと押され、弾みで2、3歩足が出た。
あれ?ナンだこの感じ・・・
あんなに出した一歩に体重を掛けることが出来なかったのに・・・
そっか・・・
私、お父さんに背中を押して貰いたかったんだ。
もういいよ・・・そう言って背中を押して貰いたかったんだ。
「冬子!」
2、3歩、歩いて速度をなくしたその足はヨレヨレ君の、私を呼ぶ声で再び動き出す。
一度後ろを振り返ると、お父さんはにっこり笑って手を振っていた。