ヘタレな野獣
雨宮君を見上げた私は、意外に近い二人の距離に不謹慎にも、ときめいてしまった。


「冬子さん・・・」


「何っ・・?
ン・・・!」


不意に塞がれた唇、やだ、こんな所で・・・



「・・・誓いますよ、僕」

ゆっくりと離れた彼の唇が動く。


「まさに誓って、僕は冬子さんを大切にします」


そう言いながら、正君が眠る墓石の方を見た。



「・・・まさ、いいだろ?
お前は出来なかったんだ・・・後は俺に任せろ」



それは小さな小さな声だった。


大切なモノ・・・





アナタにとってそれはどんなモノ?




愛しい恋人?





かけがえのない家族?




自分を頼る健気なペット?




自由な時間?




それとも己自身?





人それぞれにある大切なモノ・・・



形は違えど一つや二つは必ずある。



私が今大切にしたいモノ、それは・・・




もうこの世には居ない正君と、正君と過ごした時間、これからは大事な思い出として胸にそっと閉まっておきたい。





そしてそんな正君が引き合わせてくれた最愛の人、雨宮剛・・・



出逢いはパッとしなかったけど、私の大切な人。








< 146 / 148 >

この作品をシェア

pagetop