ヘタレな野獣
それにしても、ヨレヨレスーツを着ている割に、何だかいい香りがする。

抱き合う形のまま、私は彼を見上げた。

「雨宮さんって・・・香水とか付けてる?」
「うわぁあ、ごめんなさいっ!」

慌てて私から離れる。

「ねぇ、付けてる?」
「え?あっ、香水ですか?いえ?付けてませんよ?僕臭いますか?」
そう言いながら、自分の腕をクンクン嗅ぎ出した。
「・・・そ?・・・」

短く答えて再び歩き出した私を、待って下さいよぉ、と情け無い声を上げながら付いてくるヨレヨレスーツの・・・そうだ、ヨレヨレ君だ。これからそう呼ぶ事にしよう。

しかし、やはり腑に落ちないのは彼を纏うあの香り、付けてないのに微かに香るって・・・
それに妙に落ち着くんだよね、あれ・・・


まぁ、それはそれとして、私何であんな啖呵を切っちゃったんだろう、小動物の如く付いてくるヨレヨレ君を背中に感じながら、私は思いっきり後悔した。


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