ヘタレな野獣
「二課の課長を仰せつかりました雨宮剛と申します。何分新参者ではございますが、二課の、また部の戦力に、1日も早く加われるよう、切磋琢磨し、精進して行く所存です。宜しくお願い致します」

パチパチパチッ

「わからない事があれば、田崎補佐に聞くといい、雨宮君、いや雨宮課長、頑張って下さいよ?」

彼の挨拶の後、部長の一言が添えられ、月曜の朝礼が終わった。


「田崎補佐ぁ、何だか雰囲気のある方ですね」

デスクに戻ろうとした私に声を掛けてきたのは田之上さん。

タイプだわぁ、なんて言いながら自席に戻って行く。

やっぱりあの子、男見る目、無いわ。

だって彼は、あのヨレヨレ君だよ?
先週の彼と同一人物だよ?

それを見抜けないとは、・・・化かした
私が凄いのか?

素材がいいのか、こうキチンとしたスーツを身に纏っていると、これが本当にあのヨレヨレ君?と疑いたくなる出来栄えである。

正に、孫にも衣装・・・

自己満足にニヤけながら、座った椅子をクルクルしていたら、か細い声が私に向けられた。

「あのぉ・・・田崎補佐ぁ・・・」

真新しい眼鏡をクイクイ上げる仕草をしながら、私の傍に突っ立って居るヨレヨレ君。

「・・・・・」
「僕、上手くやれましたか?」
「・・・・・」

何気にこの課の全ての視線がこちらに集中してやしまいか?・・・自意識過剰、なのか?

「ねぇ、田崎補佐・・・
黙ってないで、何とか言って下さいよぉ・・・」

< 20 / 148 >

この作品をシェア

pagetop