ヘタレな野獣
化かしたとはいえ、今の彼は所詮、表面を取り繕っただけの、張りぼてである。

「たっ、田崎補佐ぁ」
はっ！
「あっ、挨拶廻りですね？お名刺、持たれましたか？では、参りましょうか」

私は鞄と、彼の腕を掴んで、逃げるように二課を後にした。


「ちょっと、待って下さいよぉ」

あぁあ、イライラする。
前言撤回、何が落ち着くよ！イライラしっぱなしじゃない！
あんなに打ち合わせしたのに、既に台無しにしてくれて。


会社を出て直ぐの信号に捕まり、出鼻を挫かれる。


「ねぇ、田崎補佐ぁ」
「あなたねぇ！！！」

ヨレヨレ君に、振り向き様に、少しは自分の立場を考えたらって言いかけて、止めた。

たかが、３日程の付け焼き刃、そんなものが身につく訳は無い。

「雨宮課長、この間言ったように、事務所では余り話さないで下さいね」
「・・・そうでした、すみません、つい・・・」

頭を掻きながら私に頭を下げる。


あぁ、何でこんな事に、って、言い出したのは、あ・た・し・か・・・


「とにかく、策を練り直しましょう」

移動の電車の中、今日廻る予定の取引先の概要を一通り掻い摘んで話て聞かせ、最後に余計な口は慎むように念を押した。


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