ヘタレな野獣
無難に挨拶回りを終え、時計を見ると既に午後の1時を過ぎていた。

「田崎補佐ぁ、僕お腹空いちゃって、どこか入りません?」

両手でお腹を押さえ、空腹をアピールするヨレヨレ君。

「そうねぇ、じゃお昼にしましょうか」
「はいっ!!!」

いい返事だ事・・・




この2日間、私は彼に付きっ切りだった。

土曜は朝からヨレヨレ君と待ち合わせて、美容院、眼鏡屋と制覇し、終いは押し掛けた彼の部屋でスーツを物色した。

型は古いけど、良いものを揃えていたから、敢えて、新たに買い足す事はせず、その代わりネクタイを新調する事にした。

日曜日、セレクトショップで数本のネクタイを買い、そのまま、休日出勤を装い色々レクチャーを施した。

流石に国立大出だけはある、一通りの説明で、殆どを理解してくれた。



このひと月で彼の処遇が決まる。

別に私には関係の無い事と言えばそれ迄だけど、何だか放っておけない、だから、私も全力で協力したい。



「午後からどうするんですか?」

食事をしながら仕事の話。

「う〜ん、今日はこれでお終い。後は会社に戻って、新規の見積もりあげなきゃ・・・」

年度末から足繁く通った甲斐あって、どうにかプレゼンに参加させて貰えるところまで漕ぎ着けた新規のお客様。

何が何でもモノにしたい。


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