ヘタレな野獣
男の正体
最近のヨレヨレ君は、当初の挙動不審さは無く、落ち着いている。そんな彼に私は胸を撫で下ろしている。


「補佐、課長の歓迎会の事なんですけど・・」

今日は例の新規参入を試みている会社にて、やっと漕ぎ着けたプレゼンの日。

「ごめん、急いでるの、その件は田之上さんに任せた、後は宜しく。
課長、武田君、そろそろ・・・」

慌ただしく会社を飛び出した。

田之上さんには悪いけど、今はそれどころじゃない。

軽くあしらった訳では無いけど、気を悪くしたかも知れない。

プレゼンが上手くいってもいかなくても、帰りにスィーツでも、買って帰ろう、そんな事を思いながら、社用車に乗り込んだ。

「武田君、忘れ物、無いわよね?」
「大丈夫っすよ」

ハンドルを握る武田君がミラー越しに見た。

「そんな事より、課長、顔色悪いっすね、大丈夫っすか?」

えっ?
武田君のその、一言に、私は隣に座るヨレヨレ君に目を向けた。

確かに顔色がすぐれない。

「雨宮課長?」
「・・・大丈夫です」

大丈夫と言う割に見た目にはそう見えない。

「・・・失礼します」

思わず私は彼の額に左手を当てがった。

別段熱がある訳ではない。

「ホント大丈夫なんで・・・」

ヨレヨレは、自分のおでこにある私の手をどこし、そのまま視線を車窓の外に移した。

こんなヨレヨレ君を見るのは初めてで、私はそれ以上、言葉をかけられなくて、ただ黙って彼の横顔を見た。


先方に着くと、私達の1つ前の企業のプレゼンがまだ終わっていなかった。

案内された部屋で待機する。

その時間を利用して、最終確認をしていたら、ヨレヨレ君がトイレに立った。

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