ヘタレな野獣
「おはよう」
「おはようございます」

朝のお決まりの挨拶をいなし、窓際の自席に着く。

「おはようございます、田崎補佐・・・」

事務方の田之上が、オドオドしなからこちらへやって来た。

「おはよう、どうかした?」
「あの・・・あちらの方は・・?」

肩越しに後ろに顔を向ける仕草をしながら、冬子に何かを訴えてきた。

「あちらって・・・どちら?」
「もう!補佐ったら!あちらって言ったら・・・アチラ、ですよ!」

彼女の視線を辿った先には、ヨレヨレスーツに眼鏡をかけた、ひとりの男性が座っていた。

「・・・・・って、誰?」
「知りませんよ!
私が出社した時には既にあそこに座って居たんですから!」

小声ではあるが、精一杯の感情を冬子に伝えて来る田之上。

「中途採用なんて聞いてないんだけどなぁ・・・田之上さん、悪いんだけど名前、確認して来て貰える?」
「嫌ですよっ!田崎補佐、お願いしますよぉ」

人事に連絡しようと受話器に伸ばした左手を田之上が掴む。

掴んだ手を引きながら、その男性の元へ進んで行く。

「ほらっ、補佐」

田之上は顎をクイクイして、冬子に催促する。
はぁ、仕方無い、と諦めてたその時


「田崎君、田崎君は居るかね!」




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