ヘタレな野獣
ヨレヨレ君の上に・・・
だって、髪の毛掴んだ手、離してくれないんだもん。


「ん、とおこぉ・・ムニャムニャ・・・」



ドキッ
そうじゃなくって!

一刻も早く、彼の上から退きたいのに、事もあろうか、私の背中に両腕を回し、しっかりと抱き締めてくるヨレヨレ君・・・


流石と言うべきなのか・・・


酔っていても奴はやっぱり男で、女の私の力なんてかなう訳もなく、しかし、彼の両腕の中無駄に足掻いてみる。



「だめれす
暴れないれくらはい・・・」


ヨレヨレ君はそう言いながら更に回した腕に力を込める。



もおぉお、やだよぉ、こんなの・・・

私は泣きそうになっていた。

そして、恨めしそうに、彼の顔をジッと見つめる。

睫、長いなぁ。

綺麗な形の眉だ、剃ったり抜いたりしてるのかなぁ。

あっ、こんなとこに黒子がある。

髭、少し伸びてきてる。

唇、結構ボッテリしてるんだ。

夕べ、彼にキスを迫られ、思わず突き飛ばしてしまったけど、本当のところ、まんざらでもなかった。

でも、着任してまだ二週間、会社で出来る男を装って・・・しかし何かしろ結果を残さなければ、会社は彼をお払い箱。

そんな大事な時期に、浮かれた気持ちで接してはいけないんだと、言い聞かせてきた。

でも・・・でも・・・

きっと彼は酔っていて、明日になれば今日の事なんて、綺麗さっぱり頭から消えてなくなってる。

「雨宮、剛
あたし、アンタに惹かれてるかも・・・」


そんな独り言を言って、彼の唇に自分のそれを押し当てた。


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