ヘタレな野獣
ヨレヨレ君のその一言に、私が顔を上げた瞬間だった。

「ン・・・ンンン・・ン」

まさかのまさか!

いきなり唇を塞がれてしまった。


「口、開けて?・・・」

少しだけ離れて、でも少しでも動けば彼の唇に触れてしまう距離ではあるけど、ヨレヨレ君は私にそう言いながら、彼の右手が私の顎に触れる。

「だっ、だめだよ、これ以上は・・・」

震える声で、私が言うと「どうして?」と囁くように返してきた。

息が唇にかかる。

思わず顔を逸らせ、私は続けた。

「だって・・・まだ知り合って間がないんだよ?
そっ、それに、その前に、仮にも雨宮君は私の上司・・・」
「それが何か問題でも?」

落ち着き払った声で彼はそう言った。

女慣れ、してる?
やっぱりネコ被ってたんだ。

彼のそんな受け答えに、私はそう結論付けた。

「とっ、とにかく、私は帰るわ、・・・「一目見た瞬間、恋に落ちるって事、無い?」

えっ?

「僕はあの日からずっとアナタに恋して来たんだ。冬子さんは覚えていないかも知れないけど、僕はこの3年間ずっとアナタに恋してきた」

言ってる意味が分からない。

ちょっと待って?
私達は初対面だったでしょ?

なのに、どういう事?

3年間って・・・


「雨宮君、あなた一体・・・」


何度目だろうか、私がこの台詞を彼に投げ掛けるのは・・・


「・・・別にいいんです、僕の事覚えてなくても・・でも、今言った言葉に嘘偽りはありませんから。
僕はずっとアナタ一人を思い続けてきた。だからアナタが僕を受け入れてくれる迄、気長に待ちます。
3年待ったんだ、後少しくらい何て事はありません」

ニッコリ微笑んで私を見ている。

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