ヘタレな野獣
翌週明け、いつもと変わらず決まった時刻に出社する。

土日捕まらなかった岸田を訪ねて人事へ足を向ける。




『どうだい?少しは慣れてきたか?』

人事の手前にある給湯室から田中部長の声が聞こえてきた。

『お陰様で・・・あの時は本当に無理を言いまして・・・』


っ!!!!!

私は思わず足を止めた。
この声、ヨレヨレ君?

私は壁に背中をくっつけて、中の会話に耳を側立てた。

『全くだよ・・・
しかし、なんだねぇ、剛君の考えてる事が、ワシには理解できんよ、はははっ、まぁボロを出さんよう頑張りなさい』
『ご忠告ありがとうございます』


2人の会話が終わる、私は慌てて来た廊下を少し戻り、階段の踊場に身を潜めた。



驚いた、人事部長がヨレヨレ君と顔見知りだったなんて・・・

ううん、ただの知り合いなんかない。
『剛君』、田中部長は彼を親しみを込めてそう呼んでいた。

何がどうなっているのか、先週末から続く事件に、私は身体がついて行かない。



『あの時は無理を・・・』
『ボロを出さないよう・・・』

部長とヨレヨレ君が言った言葉がグルグル頭を廻る。


「補佐?
おはようございます、何やってんすか?
こんなとこで・・・」

廊下から、武田君が声をかけてきた。

「おっ、おはよう・・・」

変なとこを見られちゃったな、バツが悪い。

武田君と一緒に二課に行くと、ヨレヨレ君はまだ来ていなかった。


「おはようございます」
「おはよう」

朝の挨拶を交わしながら自分のデスク行き、岸田に内線する。


「おはよう、今日のお昼、外に出ない?」
『おはよう、オッケー分かった。じゃ後でね』


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