ヘタレな野獣
用件だけで受話器を置く。

「おはようございます」
「おはようございます」

タイミング良くか悪くか分からないけど、受話器を置いて顔を上げた時、入ってきたヨレヨレ君と目があった。

「田崎さん、おはようございます」

ニッコリと、満面の笑みを浮かべ、私のデスクの前で立ち止まる。


「おはようございます」
「この間は楽しかったです。また・・・「山田部長!」

私は彼の言葉に自分の言葉を重ねた。

そして、そのまま席を立ち、部長のデスクに行く。


何故自分がこんな態度を取るのか分からない。

でも、やはり彼に対して疑惑の念が沸き起こっていた。


部長に朝礼の催促をし、滞りなく事を終え、自席につくや否や、プレゼンの最終確認を武田君と行う。


「雨宮課長、なにやってんすか、早く!」
ミーティングに加わらないヨレヨレ君に、痺れを切らした武田君が声を上げる。

きっと私の態度にヨレヨレ君は気分を害したのだろう、武田君のその言葉にも反応を見せず、何やら書類に目を通している。


「課長!聞いてるんすか!?」
「武田君、いいから・・・」

武田君を制して私は立ち上がり、ヨレヨレ君のデスクの前に立った。


「お忘れですか?
本日10時に・・・「すまない、急ぎで別件の見積が入りました。特に僕が同行する必要もないでしょう、元々その件は僕がこちらに来る以前に田崎さん達が詰めたものですからね・・・」



< 61 / 148 >

この作品をシェア

pagetop