ヘタレな野獣
そうなんだ、そうだったんだ。

ん?でも、何か腑に落ちないぞ?
だって、別に隠すような事柄でもないじゃない?
なのにわざわざ経歴を偽ったまで・・・


するとヨレヨレ君は、そんな私を見透かしたように、フッと柔らかい笑顔を見せた。

「あまり仕事が出来るとか、そんな噂や色眼鏡に惑わされたくないんですよ、だって、・・
自分では今まで順風満帆にやってこれたのは、同じチームの人力があってこそ、だと思っていますからね、ただ、自分がそのチームのリーダーだったと、それだけの事ですから・・・」


ズキュン

今の一言に、私は完全ノックアウト。

今時そんな謙虚な男性がいるとは思ってもいなかった。

田崎冬子・・・やはり私はヨレヨレ君、あなたに惚れちゃいました。


改めて自分の気持ちに気付いてみると、こうして抱き締められてる事が、無性に恥ずかしい。

数分前まで疑心暗鬼になって、自分のした事を棚に上げて、それをヨレヨレ君のせいにして・・・

今思えば、腹がたったりイライラしたりしていたのは、ヨレヨレ君の事が気になり、惹かれているのに、そんな私に偽りの姿を見せていた彼に対する、素直になれない私の気持ちがそうさせていたからなんだ。

面倒くさいのは、私だ・・・

抱き締められている私は、ソッと彼の背中に手を回した。

背広をギュッと掴んで、彼の胸に顔を埋めた。

どれくらいそうしていたのだろうか、ヨレヨレ君が口を開いた。


「冬子さん、そろそろ時間も時間ですし・・・
今日はこれで失礼します」

えっ?帰っちゃうの?

彼の胸に埋めていた顔を上げ、ヨレヨレ君を見た。

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