ヘタレな野獣
それから私は祥月命日に正君の家には行かなくなった。
行かない代わりに、年に一度の命日には仏前に座る事を許して貰った。

年に一度の再会の日。


祥月命日にはお墓に行っていた。


いつ、納骨したかさえ教えては貰ってなかったけど、墓前で手を合わせていた。


それは今も続いている。

あの時お父さんに言われた事・・・
私は何とも虚しい気持ちになっていた。

死んでも尚、正君には私は相応しくないと言われている気がしていた。


けど、時間が経つと、お父さんの優しさが分かる。

息子の死で、年頃の娘を縛りたく無かったんじゃないか・・・


3年前の私は、愛する人をいきなり無くし、それを受け入れるのに随分の時間が必要だった。


少しでも時間があればすぐに彼を思い涙していた。

そんな時も岸田が側に居てくれたんだ。



彼は私達と同期であった。

配属された部が同じであった事から、話をするようになり、いつしかなくてはならない存在へと変わっていった。


組織というモノに大分馴れてきた入社二年目の私の誕生日に彼から告白され、私達は付き合うようになったんだ。


しかし、そのおよそ二年半後のあの日、彼は私に何の言葉もなく、独りで旅立ってしまった・・・

何故彼は私に黙って逝ってしまったのか、あの日から私は自問自答を繰り返していた。



しかし答えは出なかった、ううん、辿り着く事が出来なかったんだ。


『アレは弱い人間だった。そんな人間の事は早く忘れて、前に進みなさい』

< 80 / 148 >

この作品をシェア

pagetop