ヘタレな野獣
私はそのまま階段を上り、スクリーン8と書かれた部屋に入っていった。

L、L・・・あっ、この列だ、私はLの後に書いてある番号を捜しながらゆっくりと歩く。館内のライトが、少し暗くなった。

やだぁ、もう始まっちゃう、暗くなったら席捜せないじゃない、どうしよう・・・
焦る気持ちとは裏腹に、なかなか体が動かない。

「ほら、冬子さん、こっちですよ」

いつの間に戻ったのか、ヨレヨレ君が私の方を見て手招きしている。

早足でヨレヨレ君に駆け寄る。

「急に暗くなるし、焦ったぁ、」
「・・・クスッ、冬子さん、出入り口は2つあるんですよ、席が書いたプレート入り口にあったの、見なかったんですか?」


みんな、大体の人はそこで席を確認して近い出入り口から入るんだと、ヨレヨレ君は少し呆れたように私に言った。


ヨレヨレ君が取った席は端の方で私はその逆の遠い出入り口から入ったみたいだった。


「皆さんの邪魔になりますから、座りましょうか」

そう言って、私の席のシートを下げてくれる。

そこまでしなくてもいいのに・・・



「あっ、すみません、冬子さんのお尻に触っちゃいました、えへへ・・・」


っ!!!!!!


雨宮君、と言おうとした時、薄暗かった館内が真っ暗になった。


助かったのかな?
だって、今の私の顔は絶対茹で蛸のように真っ赤な筈だから・・・


「すみません、小銭が無くて、一つしか買えませんでした」


隣から私の耳元にかかる息遣い、そんな風に囁かないでよ。

「でも、ストローは二本貰ってきましたから」


って、・・・
えぇええ!?


私とヨレヨレ君の席の間にあるホルダーに置かれた、ラージサイズの大きなカップ・・・

この中身を二人して飲むというの!?


無料無理、絶対無理。


だって・・・
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