ヘタレな野獣
「・・・大丈夫ですか?」
ビクッ!!!
いつの間にか会議室に入って来た雨宮。
心配そうに冬子を見ている。
ドキッ・・・
冬子を心配しながら見下ろす彼の顔を初めてちゃんと視界に捉えた彼女はときめいてしまった。
表情を隠すように掛けられた大きな眼鏡、そしてそれをも隠すように伸ばされた前髪。
しかしよくよく見ると、・・・
「あっあたしの心配より、ごっご自分の心配でもなさったら?」
冬子は二、三歩後退し、ファイルを広げバインダーから紙を一枚取り出し、彼にそれを差し出した。
「取り敢えず、かけて?」
冬子は椅子に腰掛けるよう促し、自身も椅子に体を沈めた。
「経歴書、ですか?」
彼はその用紙に書かれた文字を読み上げた。
「・・・一応ね、間違いだったとは言え、貴方も会社辞めて此処で働く気で来たんでしょ?」
「・・・・・」
「書ける範囲で構わないから、記入して頂ける?」
「・・・はい、」
差し出したボールペンを彼は受け取り、用紙に記入し始める。
「先程は少し言い過ぎたと反省しています、ごめんなさい。
こちらの不手際のせいで、会社を辞めてしまった貴方を無責任に放り出すなんて事は、やはり、人としてどうかと思う訳で・・・」
彼女は独り言を言うように、彼が走らせるペン先を、ただボーッと見ながらそんな事を言った。