ヘタレな野獣
ん?あれ?よく考えたら、スモールサイズなら余裕で2つ買えたはず、コイツ、確信犯かも・・・

でも、喉が渇いてる。


どうしよう・・・


「先に飲みますか?」

カップを手に、私に差し出すヨレヨレ君。

思わず受け取りそうになった。

「飲まないんですか?」
「私はいいわ、雨宮君飲みなさいよ」
「そうですか、じゃいただきます」

・・・・・

自分で買っておいて、何がいただきますよ、あぁあ、それにしても喉渇いたぁあ。


でも、映画に集中してれば、この渇きも忘れるかも、だよね。

私は一度座り直して、スクリーンに目をやった。

目を、やった、のに、・・・

私の目の前にはヨレヨレ君のアップがあって、強引にストローを突っ込まれてしまった。

びっくりして固まっていると、下からカップをクイクイしてくるヨレヨレ君。

「冷たくて旨いですよ?」
「・・・・・」
「ほら、ほらっ」

スクリーンを背に、正面から煽るように畳み掛けるヨレヨレ君、逆光だから表情まではハッキリ分からないけど、凄く楽しそう。

「いっ、頂きます・・・」

吹き出しそうになるのをグッと堪え、私は素直に彼の指示に従った。

ヨレヨレ君は満足したのだろうか、シートに体を埋めた。


横目でチラリと隣を盗み見る。


スクリーンからの明かりに照らし出された男の顔がそこにあった。



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