ヘタレな野獣
映画の内容なんて、何一つ覚えやしない、劇場を出たのは既に日付が変わっていた。



「面白かったですね、僕が・・・」

5月もそろそろ終わろうかという週末の深夜の風は、まだまだ冷たく、隣で一生懸命先程観た映画の感想を熱く語るヨレヨレ君には悪いけど、私は違う事に思いを馳せていた。


「冬子さん、聞いてますか?」

・・・

「・・・一体何を考えてるんでしょうか、このおつむは・・・」

真正面からヨレヨレ君の両手が頭を鷲掴みにしてきた。

そしてそのまま引き寄せられ、彼の胸の中に収められる。


ドキドキ、ドキドキ・・・


「そろそろ帰りましょうか、」

そのまま腰に手を廻され、私達は歩き出した。


その時、何かがピカッと光ったような気がしたが、私は妄想に舞い上がっていて、あまり気には止めなかった。



・・・・・
帰るって、それぞれの部屋に?
それとも、また前みたいにヨレヨレ君の部屋に?

この状況でヨレヨレ君ん家に行っちゃえば、多分私は彼を拒まないだろう、・・・

彼がそれを望めば・・・




でも、私の願望は叶えられる事はなかった。


わざわざ自分のマンションを通り越して、私を部屋の前まで送り届け、お休みのキスを頬に残して彼は帰っていった。



その夜、私は明け方近くまで、なかなか寝つけなかった。

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