ヘタレな野獣
耳に付くそんな会話に、私はこの場を逃げ出したい気持ちになった。

「短い時間で、申し訳ありませんでした。
ありがとうございます、田崎補佐」

ばっ、!
黙って受け取ればいいものを、さっきの陰口聞こえてた筈なのに、わざわざ・・・


「しっ、失礼します」


慌てて武田君の元に戻ると、急いで席に着く。


「えぇえ、では営業会議を始めたいと思いますが、その前に、本社営業部第二営業課に新しく雨宮課長が就かれました。
雨宮課長、ご挨拶願えますか?」

今回の司会進行は支店の山部課長だった。


「初めまして、この5月から着任致しました、雨宮剛と申します・・・」


課長の挨拶で一同がざわめきだした。


「えっ?あまみやたけるって、まさかあの?」

「どっかで見た事のある顔だと思ったら、やはり奴だったか・・・」

「しかしそんな奴が何でうちみたいな中小企業に?」

周りでそんなひそひそ話が耳に入ってくる。


「やっぱり課長って、すげぇ人だったんすね、なんか俺、鼻が高いっす!」

隣で武田君は頬を赤らめて興奮している。


・・・業界でもそんな有名な人だったんだ、私ったら、そんな事も知らないで、あんな事、言ったりして・・・





< 97 / 148 >

この作品をシェア

pagetop