雫に溺れて甘く香る
「……何?」

私の手元を見ながら、続木さんは微かに首を傾げる。

献立を聞いてるのかな?

「卵焼きと、ほうれん草のお浸しと、人参のキンピラ」

「人参は嫌いだな」

彼はぼやくようにそう言って、髪を拭きながらソファーに座った。


あんたは子供か。

嫌いなら嫌いで食べなければいいじゃないか。


思ったけれど、口には出さずに盛り付けを始める。


「今日も仕事でしょ? ドライヤー使わなくていいの?」

新店舗に移転してから、お店は土日も営業している。

以前は平日だけだったのに、場所が目立つところに移ったからか、土日も客足が伸びているのだそうだ。

ただ、三人でシフトをまわしているのは間違いないから、第1、第3日曜日は休み。

今日は第2週の土曜だから、続木さんは仕事のはず。

だから、髪はいつもキッチリ乾かしているのに……。

ふっと顔を上げると、タオルの隙間から見えた視線と目が合った。


「俺、今日は休み」

「ふぅん」

週末に休みなんて珍しい。

「天気がいいな」

「そうだね」

さて、彩りよく盛りつけてしまおう。

「シノに車借りた」

「ああ、そう」

続木さんて車持ってないんだ。でも、免許はあるのかな。

まさかこの流れで私に運転しろとは言わないだろうけど。

「それで山に行く」

「ふぅん?」

今時期だと、行楽客が多いかもね~。


「相談してるんだが」

「ん……?」


何の相談?


手を止めて顔を上げると、不機嫌そうな視線とぶつかった。
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