雫に溺れて甘く香る
週末以外は一人なのに。週末だけ倍になる買い物。

それが寂しいのか、嬉しいのか……全然判らない。


ぼんやりとした視線の先に、テナントの看板が入ってきた。


合い鍵・靴修理の店。

靴はあまり修理しないけど……。

ポケットの鍵をチャリチャリと弄びながら、“合鍵”の二文字を眺めて唇を尖らせる。


ウザイかも知れない。でも何か……形のあるものが欲しい。

彼氏と彼女って、その証。


前は抱かれるだけでも良いと思っていた。

だけど、今は違うから……。


「すみません」


思い切って合い鍵を頼んだ。

人の良さそうな白髪まじりのおじさんが、ニコニコしながら鍵を受け取ってくれる。

そして機械で金属を削る音。


別にアイツに渡せなくても、合鍵はいくつあっても良いんだし……これは予備よ、予備。

そんな意味もない言い訳をしながら、たったそれだけの事に明らかに疲れる。

でも、せっかく出て来たんだし、何か買って行かないと。

出来上がったばかりの合鍵をポケットに入れて歩きだした途端、何かにカートをぶつけた。


「───っ!!」


声もなく、しゃがみ込んでいる目の前の男性。


……やっちゃった。


「す……すみません。ごめんなさい」

慌てて謝るとその人は振り返り……私を見ると目を丸くして、口をあんぐりと開ける。

え。何?


「……大丈夫ですか?」

頭はぶつけてないと思うんだけれど。


「悠紀ちゃん?」


私の名前を知る……貴方はどなた様ですか?
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