雫に溺れて甘く香る
「樽川くんは、まだ下の名前で呼ぶ癖が直らないんだね」
「そういえば、昔も注意されたなぁ」
彼は笑いながらポケットから財布を取り出すと、スッと何か差し出してくる。
「これ、僕の名刺。良かったら受け取って?」
「え。あ……うん。私、今日は名刺持ってない」
「別にいいよ~」
樽川くんは手を振りながら首を傾げた。
「何かの縁だし。たまに遊ぼうよ」
「あ。うん」
名刺を受け取って、印刷された文字を追う。
インテリアコーディネーター【樽川雅人】の文字。
「それにね。悠紀ちゃん」
「ん?」
「僕が名前で呼んでたのって、悠紀ちゃんだけなんだけどね」
「そうなの?」
そうだったのかな? それは全然覚えていないけど、ちょっと苦笑の樽川くんが見えた。
「まぁ……いいや。またね〝悠紀ちゃん〟」
手を振る樽川くんに手を振り返し、その後ろ姿を見送って……。
コトンと首を傾げる。
確かに私の事を“悠紀”と、名前で呼ぶ人はいなかった。
名字で呼ぶ人がほとんどで……。
「あ……」
行き着いた答えにドキドキして顔を赤らめる。
まさか……ね?
でも、名前を呼ぶのって、どこか親密な気がするけど。
特別に仲がいい友達もいなかったし……そんな私に、樽川くんは暇さえあれば纏わり付いて来ていた記憶が蘇る。
同じクラス。たったそれだけの接点。
だけれど、印象に残っている野球部の男の子。
「もう昔の話だよね」
小さく笑いながら、名刺をしまって買い物を済ませた。
「そういえば、昔も注意されたなぁ」
彼は笑いながらポケットから財布を取り出すと、スッと何か差し出してくる。
「これ、僕の名刺。良かったら受け取って?」
「え。あ……うん。私、今日は名刺持ってない」
「別にいいよ~」
樽川くんは手を振りながら首を傾げた。
「何かの縁だし。たまに遊ぼうよ」
「あ。うん」
名刺を受け取って、印刷された文字を追う。
インテリアコーディネーター【樽川雅人】の文字。
「それにね。悠紀ちゃん」
「ん?」
「僕が名前で呼んでたのって、悠紀ちゃんだけなんだけどね」
「そうなの?」
そうだったのかな? それは全然覚えていないけど、ちょっと苦笑の樽川くんが見えた。
「まぁ……いいや。またね〝悠紀ちゃん〟」
手を振る樽川くんに手を振り返し、その後ろ姿を見送って……。
コトンと首を傾げる。
確かに私の事を“悠紀”と、名前で呼ぶ人はいなかった。
名字で呼ぶ人がほとんどで……。
「あ……」
行き着いた答えにドキドキして顔を赤らめる。
まさか……ね?
でも、名前を呼ぶのって、どこか親密な気がするけど。
特別に仲がいい友達もいなかったし……そんな私に、樽川くんは暇さえあれば纏わり付いて来ていた記憶が蘇る。
同じクラス。たったそれだけの接点。
だけれど、印象に残っている野球部の男の子。
「もう昔の話だよね」
小さく笑いながら、名刺をしまって買い物を済ませた。