雫に溺れて甘く香る
……ずるい。何だかずるい。

のけ者にされた気分で、何だかもやもやする。

お店での事なら別に気にしないけれど、明らかに今のは違うよね。

こんな時、不公平が無いように黙り込むなのが篠原さん。

それは間違いなく、私と続木さんの事だよね。


気になって仕方がない。とても気になる。

だからお店の最後のお客様がいなくなり、私がいても閉店の用意をしている彼らを眺めながら……煙草を吸って伝票を片付けている続木さんを睨んだ。


「続木さん」

「……何」

「さっき、変な事を言われた」

そう言うと、続木さんが持っていた伝票から視線を上げ……。

それから、リキュールをしまっている篠原さんを見る。

「……何を?」

「苦労するね……って」

「そうだな」

軽く返事をして、また視線を伝票に落とし、続木さんは仕事を続ける。


……そうだなって。


イラッとするんだけど!

「何一人で苦労してるみたいなコト言ってるの」

「……別に、ここで話しするコトでもないだろう」

「だからって、何で納得してるワケ?」

「流しただけだ。少し待て」

「待てない。続木さん解んないし、何故か笑われるし」


続木さんは手を止めて、私を見まじまじと見つめると──……。


「シノ」


冷たい声で篠原さんを呼びつけて、伝票を突き付ける。


「……了解」

受け取った篠原さんを彼は睨み付けてから、奥に置いてあったらしいジャケットを片手にカウンターを出て来た。

「……帰るぞ」

「どこに?」

続木さんはしばらく沈黙し……私の頭をグシャグシャにした。

「ウチ」

その答えに瞬きをする。
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