雫に溺れて甘く香る
ウチって……私の部屋?

や、この場合……。

「え。工藤さん続木の家に行くの? え? 何、つきあっ……」

厨房から出て来た中野さんの言葉は、篠原さんにフキンをぶつけられて途切れた。


私は私で、続木さんに抱えられる様に店を出る。


「ちょっ……待って!」

「待ってもいい事がない」

「はぁ!? 何を言っ……」


続木さんは立ち止まり、じっと見下ろしてくる。


「待ってても……お前はいつも何も言わない」

どこか冷たくて、どこか寂しそうな瞳で……そして真剣な視線に、目が離せなくなって。

息が、続かなく……。


「続木さ……」

言いかけた言葉が、唇によって塞がれた。

思わずしがみつくと、抱きしめられる。

チョコレートに似た甘いかおり。思いきり吸い込んでいたら、サラサラと髪を直してくれた。


「……うちに来い。聞いてやるから」


続木さんはいつも偉そうな口調だ。

ちょっとだけ苦笑して頷いた。





< 115 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop