雫に溺れて甘く香る
***



そして、初めて来る続木さんの部屋。

数ヶ月付き合っていながら、実は初めて入った彼のウチ。

案外お店の近くにあって、意外と良いところに住んでいて、思った以上に綺麗に整理整頓している。


よくありがちなワンルーム。打ちっぱなしのコンクリートの壁にダークブラウンの扉。たぶんあれはクローゼット。
そして木目を模したクッションフローリング。
大きな窓には白いブラインドがかかっていた。

なかなかお洒落な内装をしてる。


だけど、正直言って……。


「何もないね」


窓辺にシンプルなパイプベッド。それから壁際に小さな冷蔵庫。

恐らく、自炊はしたことないであろう綺麗すぎるキッチン。

床には直接、目覚まし時計と携帯の充電器。それからタブレットサイズのパソコン。


見えるのはそれだけ。

整理整頓のレベルと言うか、そもそも散らかしようがあまりないと言うか。

普通、テレビくらいありそうなんだけど、今流行りの物を置かない生活が好きなわけ?

「全然、生活感が見えない……」

「まぁな」

まぁなで済まされた!!

「どうせ、帰って寝るだけだ」

冷蔵庫から缶ビールを2つ取り出し、続木さんはラベルを眺めてじっと立っている。

それからベッドにドカッと座ると、空いている隣を視線で示した。


確かに、床以外だとすると座る場所はそこしかない。


しぶしぶ座りに行くと、缶を差し出された。


「……話せ」
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