雫に溺れて甘く香る
「それで、なんてからかわれたんだ」

ベッドと床の間に片手を突っ込みながら続木さんは灰皿を引き出して、煙草のフィルターをくわえる。

「うん……」

曖昧な表情で続木さんを見ながら、困ったように首を傾げた。

まぁ……微笑ましい、とか言われたんだけど。

篠原さんにしてみれば、私たちは微笑ましかったのかなぁ?

……微笑ましいって言うには、少しだけ“大人”チックな関係の様な気がするんだけど。

微笑ましいって、ほら、初々しい人たちに向かって言う言葉なんじゃない?

私たちみたいな、おかしな始まりを方をした人にも使用してもいいものなのかな。

違うような気がするんだよなぁ。


「お前な……」

「ん?」

振り返って見えた冷たい視線に首を傾げる。

「ん……じゃない。どうして、いつも何も言わない」

おや? 何かイライラされてる?

「そう?」

「普通の女なら、出掛けたいだの、買い物連れてけだの、もっと一緒にいたいだの、うるさいだろうが」


うるさいって……。


「ひど……っ!」

「酷いのはどっちだ。からかわれるのわかってて、シノに車借りた俺の身にもなれ」

そんなもんになれって言われても困るんだし。

私は私だし続木さんは続木さんで、それにしても貴方はいつも上から目線だな。


……って、アレ?


「相変わらず意志表示はしないし。かと思えば、キレるし」


えっと……続木さん?

ちょっと待とうか。少し考える時間をくれてもいいんじゃないかな?


「……何考えてるか解んねぇんだよ、お前」

最後にはぶつぶつ言ってる続木さんをしみじみと眺めた。


これはもしかして、私が責められているんだろうか。
< 118 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop