雫に溺れて甘く香る
その長い指が好き。

前よりももっと、優しく触れてくれる指先が好きだな。

その違いは、私にだってわかってる。

チョコレートに似た甘い煙が漂って、その香りが私を包み込んで……。

抱きしめられた。


「悠紀……」

「ん……?」


居心地のいい場所を探して、ちょっともぞもぞしていたら、続木さんが頭の上でふっと笑ったような気がした。


「お前……合い鍵作れ」

「は?」

「お前の家に帰る」

それは、ぶっきらぼうな続木さんの言葉で。

だけど、それは彼の甘い約束。

顔を上げると、少しだけ困ったように視線を逸らされた。

「……私は、夜中に起こされても困るんだけど」

「俺は、朝早く起こされても困る」

お互いに憎まれ口を叩きながら、でも私はきっと笑ってる。

チラッと目が合うと、続木さんもくっと唇の端を上げた。


「今度、作っておくね」


もうすでに作ってます。そんな事は内緒にしておこう。

鍵を作ってた事も、その時同級生に会って、ちょっとだけ……本当にほんの少しだけときめいた事も。

秘密にしてしまおう。

過去は過去だし。これから未来を作って行こう。

そう思いながら微笑んだ。









< 120 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop