雫に溺れて甘く香る
「さすがに女の部屋に転がり込んだみたいで嫌だし。現状、二つ部屋借りてる状態でバカらしい。ここで二人暮らしは少し狭いし。俺も経済的に余裕が無いわけでもない」

「話が見えないんだけど?」

続木さんは眉を上げて私を見ると、どこか納得したような顔をされた。

「そうだな。お前は案外鈍いんだった」

「どっちが。似たようなもんでしょうが!」

「お前の方が絶対に鈍いと俺は思ってる。とりあえずハッキリ言わないと理解しない癖に」

言いながら、テーブルに置いたコンビニの袋を引き寄せて、私にそれを突きつける。

「何これ……」

と、言いかけて、見えた文字に目を丸くした。

紛れもない、飛び込んできた住宅マイホームの文字に固まってしまう。


マイホームって……。


「バカじゃないの! いきなり賃貸契約じゃなくて、どうしてマイホームなのよ!」

「……突っ込むところはそこか?」

「当たり前じゃない! だいたいね、続木さんだってまだ30前でしょうが! それでどうしていきなり家買う情報誌を見るのよ!」

「いや。後ろの方に貸家があるし」

「そもそも今から家借りてどうするつもり! そういうのはもっと将来的にしっかり考える人が……」

言いかけて、首を傾げた。


「ん……?」

「だからいつも“ん”で終わらせるなって言ってるだろうが」

「あ。ちょっと待って。整理する整理」

「何をだよ?」

「頭の中の混乱」

そう言うと、続木さんは口を閉じる。

それから私の膝の上の両手に顎を乗せて、また私を見上げてきた。
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