雫に溺れて甘く香る
「お前って、本当に俺に対して期待が薄いよな」

言葉や口調だけ聞くと文句なのに、眼は笑っていて混乱する。

え。冗談? 真面目な話? どっち?

目の前がぐるぐるきてきたんだけど。

「……それは、何か期待してもいいってこと?」

一緒に住む。家に住む。将来的には……と、なったら、何だか選択肢が随分限られてくるけど?


「俺も新店舗オープンで貯金切り崩してるから、今すぐどうこうってわけでもないけど。また貯めるし」

「続木さんて、貯金してるんだ」

まず、その事に驚きだ。

「まぁまぁ投資もしてる。俺、あんま金使わねぇし、勝手に貯まるぞ?」

ああ。あなたの嗜好品って言ったら煙草くらいだもんね。

お酒もたくさん飲む方じゃないし、出せば“嫌いだ”とぶつくさ言いながら人参も食べる。


……って、言うかさ。


「な、なんで、そんな具体的な事をいきなり言うの!?」

「いや。お前って夢見がちじゃ無さそうだし。現実的な事を言った方が納得しそうだから」

納得……納得って……。

これは何、説得なわけ?

笑みを含んだ視線に真面目な顔を返しながら、眉を寄せる。


「突然すぎて話についていけない。貴方がうちに来るようになったのも、そんなに前の話じゃないのに」

「時間が問題か?」

それはわからないけど。

「意外に思うことが多すぎて、なんとも言えない」

「そうなんだろうな。お前は相変わらずだし」

「だから、人のこと言えんの? とりあえず、どうしていきなり将来的なことを考え始めたのか教えて」

軽く睨んだら、続木さんは首を傾げながら頷いた。
< 125 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop