雫に溺れて甘く香る
「ひとつ聞いていいか?」

「何を?」

「お前は俺が好きなんだよな?」

「…………」

そんなことを聞くのは、それこそ今更じゃないか。

ここで赤くなるなら可愛いかも知れないけど、私はと言えば冷静に、まじまじと続木さんを眺めている始末。

それに彼は溜め息をついて起き上がると、隣に座って両手を広げて私を抱きしめてくる。


……なんだろ。よくわからないけど。

でも抱きしめられるのは好きだし、思わず暖かい胸板に頬擦りすると、小さく笑い声が聞こえて頭に顎を乗せられた。


「こうする時だけ、わかりやすいってのは問題だな」

「何が……?」

「抱いてる時しか、好かれてる実感がない」

え。そ、そういうこと?

「ま、まだ、実感がないとかいう?」

だいたい好きでもない男に部屋の鍵を渡すと思うのか?

そんなのはある意味“信頼”の問題になるんじゃないの?

好きでもなんでもない男に……と考えて、ある事に気がついた。


「続木さんは私が好き?」

「好きでもない女を、半年も思っていられるか」

「そんなの知らないよ。私は好きか嫌いか聞いてんの」

脇をつねるとクスッと笑う声が聞こえて、パッと顔を上げると、本当に楽しそうにしている続木さんが見えた。


……最近、営業スマイル以外の笑顔も垣間見えるようになってきたけど、本当に楽しそうにしている続木さんって初めて見たかもしれない。
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