雫に溺れて甘く香る
考えてみたら続木さんは不器用な人だと思う。

見た目はいいけど無表情だし、態度も言動もぶっきらぼう……と言うより偉そうで端的過ぎるから誤解も多いんだろうな。

強引なくせに、どこか引っ込み思案と言うか。

……人の事は言えないわけなんだけど。

「工藤さんって……」

聞こえてきた声に、篠原さんを振り向き……。

「ちゃんと黙って待っているんだね」

その言葉に眉を上げた。

「誰もしゃべってないのに話しかけろとでも言うの? 私はここでも昔話を一人語りしなくちゃいけないの?」

そんなのただの馬鹿じゃん。

首を傾げたら、とてつもなく静かな視線を向けられる。

「それはそれで気になって仕方がないけど。だからなんだろうね」

「何が?」

何が“だから”なのか、聞こうとして身を乗り出したら、後ろ髪が軽く引っ張られた。

見上げると、背後に続木さんが立っている。

……私もなんだか忙しいな。


「終わった。帰るぞ」

「はいはい。ご馳走さま~」

バックを手に取り立ち上がると、続木さんについて歩き出した。

そして店を出てから、エレベーターのボタンを押す彼を見る。

「ねぇねぇ。今のなんだったの?」

「あまり気にしなくていい」

「篠原さんて、思わせ振りな事を言うの好きだよね~?」

「……けっこう“いい性格”してるんだ。お前はからかわれやすい」

そうなのかな、そんな事はないけど。

とりあえず、またからかわれそうになったことはわかった。
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