雫に溺れて甘く香る
「私は褒められてる?」

「褒めてない」

「物わかりが良いとだめなの?」

小首を傾げて続木さんを見上げてみたら、彼は複雑そうな表情をしながら私の頭をグリグリと撫でてくる。

「わがままくらい言え」

「わがまま……? 貴方、女のわがまま嫌いじゃなかった?」

「お前は言わなさすぎる」

……言い方は続木さんらしくぶっきらぼうだけど、言われた意味が優しいのはわかる。

そして、乱雑に頭はグリグリされたまま苦笑した。

「うーん。だってもうほとんど同棲してるじゃない?」

週のほとんどをうちで過ごしている続木さん。

もはや、月に何回自宅に帰ってんだ状態だ。

平日、いないことの方が珍しいくらいになって、続木さんのものがどんどんうちに増えてくると……何て言うか。

「会えないなら、私ももう少し何か言うかもしれないけど、そのうちでいいかなぁとか考えるじゃない?」

「たまに甘えてくれても……」

「え……」

あ、甘え……?

ビックリして目を丸くしたら、スッと続木さんがあらぬ方を向く。

「毎回は無理だし忙しい時も無理だが、家まで送るくらいはできる。お前は俺が仕事中だと連絡一切寄越さないし、こっちはちゃんと帰ったのかとか考えてイライラする」

あ……そう。そうなんだ?

ポカンとしたまま、瞬きを繰り返した。


……なんて貴方は不器用なんだろう。


いや。ここは赤くなって喜ぶべき?

それが歴とした乙女のあるべき姿?
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