雫に溺れて甘く香る
「ご、ごめん?」

「謝って欲しいわけじゃない」

「じゃあ、ありがとう? 何か私も麻痺してるみたい」

そっぽを向いていた彼がゆっくりと私を見下ろし、頭から手をよけてくれる。

「ありがとうなのか?」

「だって、私を女の子扱いする人ってかなり限られてるから……彼氏が出来たのも久しぶりだし」

「そうなのか?」

「実はそうなの。社会に出てからは仕事に慣れるのに一生懸命で、同期はセクハラされても泣かない女扱いだし。そうしてるうちに、ちょっと付き合い方が麻痺してると言うか……」

彼氏とか言えてしまうような、そんなおつきあいは本当に久しぶり……。

考えていたら、ぐいっと肩を引き寄せて抱き込まれて鼻を摘ままれた。

「ちょ……なにふんの!」

「内輪の人間にまで気を使ってたら疲れるだろうが」

……そうなんだけどさ。

これは照れるな。甘えろとか言われてるのも同然だし、甘えちゃっても良いのかな?

肌寒くなってきた季節は、人の体温ってぬくぬくしてて気持ち良い。

思わず頬を寄せたら、何故か続木さんが立ち止まった。


「どうかした?」

顔を上げると彼はどこか遠くを見て、眉を寄せている。

何を見ているんだろうと前を見て、固まった。
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