雫に溺れて甘く香る
水も滴る?
*****



翌週は、ただただ仕事をこなし、無機質に過ごした。

「工藤さんどうした? 今週、外回りしてないんじゃないか?」

金曜日。それとなく村田さんに声をかけられ、目を細めて振り返ると先輩はおどけたように笑う。

「たまにはそんな週もあります」

「プロジェクトも落ち着いてるし、いつもの工藤さんなら日中は飛び回ってるだろう? 事務処理の皺寄せが残業になっても」

からかうように言われて一瞬口を閉じた。

「……村田さんて、得体の知れない人ですね」

村田さんだって、いつも外回りだ出張だとバタバタしているはずなのに、そんなことに気がつくなんて。

「そこは頼りになる先輩と言って欲しいなぁ。相談あるなら受けるけど?」

「いえ。別に仕事で悩んでるわけではないので……」

スルッと出てきてしまった言葉に気がついて、パクンと口を閉じた。

それを見ながら村田さんは訳知り顔になって頷く。

「プライベートはプライベートで処理頼む。どちらかと言うと、俺はそっち方面はダメ人間だから」

「ダメ人間ですか?」

村田さんは後輩にとって、超がつくくらい“良い人”なんだけどな?

「ぐいぐい押せ押せタイプじゃないんだよ。特にプライベートは」

「そうなんですか? あー……でも、わかります。力説している訳でもないのに、いつの間にか相手を納得させて、気がつけば商談まとめている姿はとても参考になります」

「なんだろう。褒められている気がしない」

……それは少しだけ悪口だから。

気づいているだろうに、全く気にしていない様子の先輩に笑った。
< 141 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop