雫に溺れて甘く香る
彼女がいるのに、知っていたのに、下手をすれば泥沼になるのはわかっていたのに、私は続木さんに手を出した。

それが“彼女”を傷つけると、気づいていながら、私は続木さんを誘ったんだ。

『慰めてあげる』なんて、いったいどこから目線なんだろう。

本当の意味で“慰めて”欲しかったのは私だと思う。

振り向いてくれないなら、その一時だけでも触れて欲しかった。

その視線の先に、私を映して欲しがった。

子供みたいに欲しがって、結果は私には嬉しい始まり。

……でも、彼女にとっては悲惨な終わり方。


他に方法はあったのかな。あったのかもしれない。

どうなるのかなんてわからないけど、もう少し待つことは出来たんじゃないかな?

出来なかったことをくよくよしていても仕方がないんだろうけれど、結局は誰かが傷ついたんだろうけれど。

もう少しやり方はあったはず。


そんなことを考えながらも、仕事が出来てしまう恐ろしさ。

まぁ、単に出来上がったソースに数字を入れていれば良いだけではあったけど。一応、チェックを入れて苦笑する。

どうなるのかわからないけど、ちゃんと話し合ってみようか。

だいたいグズグズしてるのは性に合わないし。

何かに遠慮や我慢をしながら、男女の付き合いなんて長続きするはずもないし。

就業時間ピッタリにパソコンの電源を落とすと、誰かに声をかけられる前に退社した。
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