雫に溺れて甘く香る
そしてお店に着くと、今度は篠原さんに“あれ?”という顔を向けられる。

「お久しぶり工藤さん。どうして来たの?」

「へ?」

「今日、こいつ休み取ってたけど?」

彼が指を差したのは私の隣で……マフラーの下で鼻をすすっている続木さんを見上げた。

「休みなら休みと言って!」

「いや。なんかタイミングずれた」

「それならうちに帰ろう」

本当に風邪ひいてない? 何だか顔が赤いような気がするんだけど……。


「えーと。早急に帰ってくれた方が店としてはありがたいかな?」

篠原さんの言葉にキョトンとしてカウンターを振り向いた時、観葉植物の影から一人の女の子が顔を出した。

少し険のある視線で続木さんを見上げたその女の子は、グラスを持ちながらニコリと可愛らしく微笑み、少しよろけながら近づいて来る。

その姿に固まった。

「その女? 私と二股かけた女って」

見た目はとっても可愛らしいけど、低い低い声で近づいてくるその子は、間違いなく続木さんの元彼女。

ゆっくりと近づきながら眉を潜めた。

「道端でいちゃつくとか、頭どうかしてんじゃないの?」

彼女の視線が私に向いた時、さっと続木さんが前に立つ。


「もう、あんたには関係ない」

「関係ないわけないでしょ? 馬鹿じゃないの?」

私もそう思わないでもない。

これは私が受けるべきことじゃないかな。

そう思って続木さんの影から出ようとした瞬間、彼女が何をしようとしているかに気がついて、思いきり続木さんを突き飛ばした。
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